2000年にオープンした千葉県立北総花の丘公園は、日本の都市公園の中で面積が広くて、自然度が特別に高い。コナラ・クヌギの雑木林、スダジイ・アカガシの照葉樹林、ハンノキ・ヤナギ類の湿地林、シラカシの並木など、実に様々な樹木や森が生い茂っている。また、公園を中心に広がる戸神台・内野・原山地区も日本離れとい言えるほど広々としていて、数多くの大きな街路樹に出会える、とてもleafy(リーフィー 樹木の多い)な住宅街。
北総花の丘公園は、地区の住民たちにとって毎日のウォーキングや愛犬の散歩として欠かせないオープンスペースであり、季節ごとの花見やピックニックも楽しめる。特に人気が高いのはドッグランとバーベキュー。ぼくも公園に隣接して棲んでおり、自然散策や、フィットネスウォーキング、バードウォッチング、トリーウォッチングなどの楽しみによく利用している。
暑い日の休憩や荷物の整理に便利なのは、Dogwood Nook。これはぼくが勝手に名付けた場所で、「nook」というのはちょっと引っ込んだ人目に付きにくい小さな片隅のこと。「dogwood (犬の木)」はミズキの仲間の総称。Dogwoodの由来 は不明だが、本来は「dog」ではなく、「 dag」(古い英語で串や短剣の意味)という説もある。このnookは立派なミズキの深い影に守られ、座り心地の良い石垣も設けられている。今の時期、果実が落ちて、葉の色も変わり始めている。
ミズキの葉は大きく、縁にはギザギザがなく、葉脈ははっきりとしていて観察しやすい。葉脈は管のような構造を持ち、根から吸い上げた水や栄養分を葉の中の葉緑細胞に届け、また、葉で合成したエネルギー化合物を運び出す。植物にとって重要な役割を担っている。
葉の中央を貫く太い葉脈を「主脈」(しゅみゃく)、そこから枝分かれる葉脈を「側脈」(そくみゃく)という。また、毛細血管のような細い葉脈を「細脈」(さいみゃく)と呼ぶ。ミズキの葉には細脈まできれいに見えるが、一番覚えやすい特徴は側脈に見られる。ミズキの側脈は主脈から出て葉の縁を目指すが、その手前で大きく湾曲して上に向かう。同じような葉脈パターンはクマノミズキ、ヤマボウシ、アメリカヤマボウシ(ハナミズキ)など、多くのミズキの仲間に共通している。
ミズキの実は小さくて、直径は1cm未満。色は青紫、数十個の丸い実が複雑に分枝する花柄に付いている。花柄の色は最初は緑だが、後で赤やピンク味を帯びることが多い。そして、この花柄の色にまつわる面白い伝説が東北の山の民の間で伝わっている。
残念ながら、ぼくはこの伝承をいつ、どこで誰に聞いたのか、よく覚えていない。マタギ文化に直接触れたのは、1993年に白神山地のUNESCO自然遺産に指定されたことを祝うNHKの特集番組機の収録だった。収録は青森県の西目屋村と秋田県の藤里町を中心に行われ、ブナ林を歩きながらマタギさんたちに色々な話を聞かせてもらった。おそらく、伝説を始めて聞いたのも、この時だっただろう。